乗務員の負担を減らし、安定と安全の両立を実現したアプリ

在来線乗務員用タブレットシステム「CAST」は、JR東海の在来線乗務員が利用するiPadアプリです。
今回、さらなる安全性の向上と輸送障害対応の迅速化、業務効率化を図るため、システムをリニューアルするプロジェクトがスタートしました。フェンリルは、アプリのデザインと、フロントエンド開発、バックエンド開発を担当。「CAST」上で利用する3つのアプリを開発しました。
ここでは、主に運転士が使用する、時刻表とナビゲーションを統合したアプリについて紹介します。
このアプリには、旧システムからの移行時における運転士の学習コストを減らすインターフェースと、安全性が確保されたシステムを搭載。今後も新しい機能を追加し、改良を続けます。

ディレクターの声

運転士の動作に合わせて変わるインターフェース

紙の時刻表を前提に運転業務は最適化されていました。
今回、時刻表のデジタル化に当たり、安全第一で運転士の動作を変えないUIを検討しました。まずは運転士の行動フローを細かく分析。そこから、駅に停車後、時刻表を指差して時刻を確認するといった動作の一つ一つが、次の動作へ移行するトリガーであることに着目しました。この既存の動作に「アプリのボタンを押す」という動作を組み込むことで、必要な情報が次々に変わる双方向のインターフェースを実現しました。
電子時刻表のレイアウトは紙の時刻表と大きく異なるものの、行動に応じて動的に変化するシステムがユーザーである運転士に評価されました。

ユーザーを中心に据えたUI設計

使いやすさを徹底的に追求するため、開発の前に調査、分析、設計、評価のサイクルを回しました。
運転士の業務は専門性が高く、一般の人の目に触れることはありません。そこで、まず業務理解に尽力しました。
実際に運転業務を観察し、プロトタイプを2回作成。ユーザーテストと修正作業を経て本開発に入りました。
ユーザーテストでは、複数の改善点を検出しました。運転席の端末設置場所から目に付きやすい情報や、端末を操作しやすい位置の存在、手袋を着用した操作でもスムーズに動作する広いタップ領域の必要性などです。これらに対応することで操作性の向上を実現しました。

デザイナーの声

学習コストを抑えたスムーズな業務移行

従来は、2018年に導入したタブレット端末「CAST」と紙の時刻表を併用していました。そのため、時刻表のデジタル化に伴うスムーズな業務移行が課題の一つでした。
ユーザーが新しく覚える作業を減らすため、まず紙の時刻表の構成や標識、運転士の確認事項の理解に努めました。色やアイコンは迅速で正確な判断に関わる重要な要素であるため、それぞれの意味を細部まで検討。
情報設計についても、指差し確認など運転士の既存の動作を阻害せず、動作に合わせるよう心掛けました。

エンジニアの声

運行業務におけるデータを集約し、コントロールできるモデルを設計

運転士が接する情報は非常に多く、多岐にわたります。例えば時刻表、路線図、駅や信号、踏切などの鉄道設備に加え位置情報、指令所から届く指示などです。一つのタブレット画面に、これらの情報をタイムリーに表示する必要があります。そこで、膨大なデータを正確に集約し、コードの中で適切にデータを保持・永続化・更新をコントロールするモデルを設計。ユーザーのヒアリングを重ねて最適な形を探し、評価される品質に仕上げました。

業務システムサーバーをクラウドで構築し、安定稼働を実現

サーバーのアプリケーションは、クラウドが提供する機能・仕様を十分に活用。前提条件に沿ったインフラを構築しました。
確実な情報伝達が保証できないネットワーク越しのやりとりでも、問題を通知する、利用者に周知して許容する、解決するなど多様な観点から適切な挙動が取れるようにしました。
システム内のネットワークをまたぐ各種モジュールのデータや、アプリケーションのバージョンなどの整合性を取り、安定稼働するシステムを設計しました。

さらなる品質向上に向けて体制を構築

安全な運行のため、現場での動作確認テストを繰り返し実施しました。
ただし、いつでも現場でテストができるわけではないことを踏まえ、開発の初期段階からデバッグ機能を組み込んで随時動作を確認できるようにしました。また、膨大なデータの中から目当てのデータを素早く検出してスプレッドシートに書き出すツールを作成したり、アプリ上で内部データを閲覧・操作できる機能を組み込んだりしました。リリース後に動作確認が必要になった際にも活用でき、さらに品質を向上させる体制を整えました。