フェンリルでは、サービスデザインやアプリ開発において、ユーザーのインサイトを引き出すリサーチを取り入れています。2020年にはサービスデザイン部(以下、SD部と記載)を立ち上げ、ユーザーエクスペリエンスを重視した質の高いプロダクト創出に力を入れてきました。
なぜリサーチは重要なのか、得た情報をどうやってビジネスに活かすのか?アプリケーションのデザインと開発を知り尽くすフェンリル独自の視点から、リサーチの有用性や活用法についてお伝えします。
アプリ開発におけるリサーチの重要性
最近はサービスデザイン(以下、SDと記載)を考慮した案件が増加するなど、リサーチの重要性が高まっていると感じます。
これまでUXチームを率いてきた中村さんから見た現状はいかがですか?
中村リサーチに対する意識は、ここ数年で大きく変化したと思いますね。
もともとフェンリルのリサーチは、クライアントの「これが欲しい、こんなことをしたい」という思いだけでなく、ユーザー目線も入れて正解を導き出そうと始まったもの。しかし、コストや時間が余分に掛かるからと敬遠され、スタートから2年ほどは苦労しました。それが今では、クライアントの方からリサーチを求められることが増え、営業がリサーチを含めたプロジェクトを当たり前に提案できるようになったのですから驚きです。
過去の制作現場では、経験や想像で「最適解」を実現しようとしていました。
最近では「リサーチで裏付けのあるものを作りたい」という依頼が増え、クライアントも制作サイドも納得して進められるようになったと感じています。
中村ユーザビリティやUXの考え方を早くから取り入れていた、ウェブ業界やハードウェア開発企業などの人材がアプリ開発に乗り出したことの影響もあると感じます。リサーチを当たり前と考える土壌を持つ人たちがアプリを作るようになり、明らかに風向きが変わった。今後、質の高いアプリを開発するためには、リサーチはますます重要なファクターとなるでしょうね。
中村 康孝
フェンリル株式会社 SD部 部長/UXコンサルタント
AV機器メーカーにてAV機器全般のユーザビリティ支援業務の経験を経た後、UXデザインコンサルティング会社にて、アプリやサイトに限らず様々な分野でのコンサルタントの実績を持つ。現在は、豊富な経験と知識を活かして、UXデザインに関する支援を行っている。HCD-Net 認定 人間中心設計専門家。
大西さんはUXコンサルタントとして入社して2年になりますが、フェンリルのリサーチ業務やSD部についてどう感じられていますか?
大西驚いたのは、各担当のスタッフと一丸となってプロジェクトに携わるところですね。プランナーやデザイナー、エンジニアがいて、その中に入ってリサーチをする。リサーチの結果だけでなく、プロセスまでも社内で共有しながら進めるという点は、他社でのリサーチ業務とは全く違いました。
幅広い分野のスタッフにリサーチの内容を説明して、理解してもらうのは大変ですが、皆さん積極的に質問してくださるので、どんどん巻き込んでいきたいという気持ちが強いです。一方で「説明責任を果たさなければ」という緊張感もあります。
大西 まどか
フェンリル株式会社 SD部 UXコンサルタント
人間中心設計思考に基づいたウェブサービスの開発や研究・調査コンサルティングに従事。2021年にフェンリル株式会社に入社し、主に新規サービスの受容性評価やユーザーリサーチを担当している。博士(生涯人間科学)、HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト。
木村さんは新卒で入社されて3年目ですが、UXコンサルタントとしての業務はいかがですか?
木村入社前は、フェンリルはアプリ開発会社だという認識だったので、その分野の調査をするのだと思っていました。しかし実際は、アプリ関連だけでなく幅広いサービスのコンペにも参加させていただくなど、想像以上に多くのことを経験しています。プランナーやデザイナーなど、多くのプロフェッショナルと共に、さまざまなことに挑戦していく環境は刺激的で「そんな視点があるんだ」という驚きと学びに満ちています。
木村 朱里
フェンリル株式会社 SD部 UXリサーチャー
2020年新卒でフェンリル株式会社に入社。現在社内のUXリサーチャーとしてHCDプロセスを元にユーザー調査、ユーザビリティ検証などを担当。HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト。
「リサーチの先」を見据えた動き
フェンリルのSD部は社内を巻き込んでプロジェクトを進める方針ですが、どのような着眼点と動きが求められますか?
中村スタッフにはいつも「リサーチだけに固執するな」と伝えています。そもそも、リサーチは「いいモノを作るための情報を入手する方法の一つ」であり、その情報をサービスにどう活かすかまでを考えることが大切。クライアントや制作サイドとしっかり情報を共有して、ビジネス全体を見据えた提案ができる組織を目指しています。
また、リサーチで「エンドユーザーが本質的に求めているもの」であるインサイトを発見し、クライアントのビジネスにどう反映するかという「リサーチの先」を見据えて動くことが求められます。
私たちが提供したいのは、世の中やエンドユーザーが何を求めどんな選択をしているかを知り、クライアントがどのようなポジションで、どんな価値観を提供するのか?を決定するための有用な手がかりです。
例えば、大手のECサイトでは企業によって全く作りが違うんですよね。その理由は目指す価値観やビジネスモデルが異なるからだと思われます。クライアントが目指すポジションや提供したい価値観、ターゲットを整理してどのようなアプローチをするかの戦略を練る。そんな踏み込んだ提案や関係構築を私たちは目指しています。
大西一般的なリサーチャーは、適切な手段で情報を収集して問題点などを明らかにすることが仕事ですが、SD部ではもう一歩踏み込んだ提案力が必要とされます。
例えば「本当はリサーチしたいけれど時間がない」というクライアントに対しても、どのような調査なら期間内に必要な情報が得られるかを見極めて、「これならやれる」という状況を創り出すといった事を大切にしています。
「5x」と「戦略的リサーチ」
フェンリルでは、5xという概念で最良のUX実現を目指しています。
具体的な課題感を感じて相談されるクライアントも増えてきたと思いますが、ニーズや期待値に関してはいかがでしょうか?
中村従来のピンポイントでの機能開発と、課題感はあるけれども「何をどうすれば分からない」というご相談の数は、半々といった印象ですね。SD部が入るプロジェクトでは、まずニーズや情報を一度整理してからサービスデザインをスタートすることを大切にしています。もちろん、クライアントに明確なイメージがあるご依頼と、漠然としたお悩みから入る案件とでは、その後のアプローチや掛かる時間は異なります。クライアントのニーズや課題をしっかり共有して、リサーチが必要なのか、すぐに仕様の検討に入るのか、最適な提案で期待に応えていくスタンスで進めていきます。
木村アプリ開発やサービスデザインでは、ユーザーの表面的なニーズだけでなく価値観などのインサイトまで知ることが大切だという認知は広がりましたが、実際にどこまでのリサーチを実施できるかという問題があります。大がかりなリサーチは費用も時間も掛かるため、二の足を踏むクライアントも少なくありません。そんなリサーチの不安やミスマッチを解消するために、受容性調査やユーザビリティ調査などさまざまな手法から、課題やタイミングに応じた方法を提案しています。
大西一般的なリサーチはプロジェクトの最初にワンショット的に実施するのですが、フェンリルではプロジェクトが動く中で確認したいことが出てきた際にスポット的なリサーチを提案することもしばしばあります。少人数・短期間で必要な調査を行ってすぐにフィードバックするなど、必要な時に必要な調査を提案・実施して、不安を解消しミスマッチも防ぐという形ですね。制作サイドやクライアントと並走しながらリサーチを入れていく方法はチャレンジングな面もありますが、最初にリサーチして終わりというスタイルよりも、プロジェクトを支えているという実感とやりがいがありますね。
「5x」と「戦略的リサーチ」
みんなの思いが「ユーザーに向く瞬間」までも創る
スポット的なリサーチを実施するケースでは、リサーチャーから提案するのでしょうか?
大西プランナーから要請されることが多いですね。プロジェクト進行中に疑問や困り事が生じた場合、「リサーチで確認したほうが良い気がするんだけど、どう思う?」と声を掛けられます。
制作サイドがアクセシビリティやユニバーサルデザインに高い意識を持ち、部署の垣根を越えてタイムリーに連携できる環境があるからこそ、可能なリサーチの入れ方なのかもしれません。
木村垣根を超えると言えば、ユーザビリティの評価を共有するときにも、クライアントや制作サイドの思いが一体となる瞬間があって胸が熱くなります。自分たちの作ったものが受け入れられたかどうか、期待も不安も分かち合いながらみんなで議論して、「いいモノを目指す」という充実感があります。
中村ユーザーの反応に関心のないクライアントはいないですからね。冷静だったクライアントがユーザーリサーチの際に興奮されている様子を見ると、期待や熱量を感じてこちらの気持ちも盛り上がります。つまり、「みんなの思いや考えが全てユーザーに向く瞬間」ですね。
しかし、そのモチベーションには賞味期限があって、次第に薄れていってしまうんです。
そこを維持しようと、私たちはクライアントやスタッフを巻き込む動きや声掛けを大切にしています。
スポットの依頼にも、トータルの依頼にも応える
リサーチに対して消極的、懐疑的な企業もまだまだ多いと思いますが、そのようなクライアントにはどのようなアプローチをしていますか?
木村リサーチのメリットは、実際に体験していただかないと伝わらないと思うので、まずは小規模なユーザーインタビューなどで有用性を実感していただくなど、ステップを踏んで提案していくことを心掛けています。
出所:「1からのマーケティング・デザイン」石井淳蔵 他(2016)を参考に弊社編集部が作成
大西時間や費用面などについて「知らないから踏み出せない」という方が多い印象です。「短期間で、必要な部分やタイミングに、スポット的リサーチを入れることも可能です!」と説明すると、驚かれることもあります。リサーチに対するハードルを下げるためにも、成し遂げたこと、スケジュール、ご予算に応じた実現可能な方法を提案して、「リサーチをやりましょう!」と積極的に働きかけるようにしています。
中村「やったほうが良い」と正論を押し付けるだけでは、クライアントに受け入れてもらえないですからね。クライアントやサービスの課題だけでなく制約まで理解して、具体的な方法やプロセスを提案することは重要だと思います。「どうすればいいのか分からない」「以前リサーチをしたが、うまくいかなかった」という企業にこそ、フェンリルのリサーチはお役に立てると思うので、まず気軽に相談していただける信頼関係の構築が大切になってくると思います。
大西リサーチャーもクライアントや開発・デザイン部門と同じゴールを目指して並走することで、全体のサービスデザインといったビジネスの戦略まで描いていく。つまり、リサーチもフェンリルが掲げる「共働していいものを作る」ためのサービスの一つなんですよね。
ビジネスにおける戦略的なリサーチを実現するためにも、クライアントとの信頼関係をしっかり構築して、フェンリルのバリューをきちんと知っていただく取り組みが必要ですね。
本日はお時間をいただきありがとうございました。
本記事の執筆者|福島 菜穂
フェンリル株式会社 SD部 ディレクター
2009年にフェンリルに入社。現在はディレクターとして複数の案件に携わる。HCDプロセスを取り入れたプロジェクトを推進中。HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト。
フェンリルではユーザーリサーチ、アプリケーションの企画立案、サービスデザインなど、クライアントのビジネスをさまざまな側面からサポートしています。
ご興味のある方は、Service Designをご覧ください。現在はオンライン無料相談も実施しておりますので、この機会に是非ご活用ください。