Fenrir Inc.

デザインと技術を形式知に変換するメソッド

フェンリルは、iPhoneが日本で発売された2008年より、スマートフォンアプリの開発事業に取り組んできました。Apple社のデバイスの特性を理解した上で、ユーザーに心地よい操作体験を提供できるよう、デザインと技術の融合でさまざまなプロダクトを提供しています。

両社が持つメソッドやノウハウをどう形式化していくか。
今回はApple社のエバンジェリストをお迎えして開催した最新AI技術「Foundation Models」のハンズオンワークショップを題材に、両社が持つナレッジを形式知化するプロセスをご紹介します。

ナレッジを循環させる仕組み

プロダクトは作るだけでなく、使い続けてもらうことで新しい価値を提供できると考えています。
フェンリルはこれまで、Sleipnirをはじめとしたさまざまなサービスやプロダクトを通じてユーザーに使いやすいと感じていただけるものを追求してきました。特にアプリ制作においては、プロダクトとして提供したい体験価値だけではなく、OSの特性も考慮してさまざまな技術を融合させる必要があります。

例えば、Appleの製品は、ユーザーが最もよく使う環境と端末での心地よい操作体験を他の環境でも再現できるよう、ボタンやコンポーネントの大きさが緻密に調整されています。フェンリルでも同様に、デバイスの特性に合わせて細部まで設計を重ねてきました。

直近のフェンリルプロダクトの一つに、iPadOS / iOSで提供する絵コンテアプリ「DROMI」があります。直感的な操作性で、絵コンテ作成に集中できるのが特長です。iPadでの手書き体験をベースに設計されており、現在はiPhoneでも快適に利用できます。

DROMIは絵コンテを描くアプリのため、一定時間iPadに触れ続けることを想定しています。そのため、画面の圧迫感を減らすことを意識しました。コンポーネント間の距離をやや広めに配置するほか、Apple Pencilなどの先の尖ったもので何かに触れる際、意図しない場所に触れないようにタップ範囲を調整しています。

このように、フェンリルはデバイスの特長と提供したい価値を融合しながら開発を進めてきました。
その中で、DROMIの開発メンバーとApple社のエバンジェリストが積極的に交流を深める機会が生まれ、フェンリルのエンジニア向けに新しい技術Foundation Modelsのワークショップの開催へとつながりました。

特性を理解し、最適解を探る(共同化・表出化)

この技術を着実に使いこなすには、単に概念の理解だけでなく、エンジニア一人一人の経験を組織の知見へと集約するプロセスが重要です。

今回は、ナレッジ創造のフレームワークである「SECIモデル(共同化・表出化・連結化・内面化)」を基に、どのように理解を知見へと落とし込んでいくかを整理します。

SECIモデルの要素

  • 共同化(Socialization):他社と経験を共有し、暗黙知を継承すること。今回であればエバンジェリストからの知見
  • 表出化(Externalization):個人のノウハウやマニュアル、図表を言語化して共有可能な形式にすること。今回であればフェンリル全体の知見との融合
  • 連結化(Combination):共有された形式知を組み合わせ、新しい知識体系を構築すること。今回であれば形式知の体系化
  • 内面化(Internalization):体系化された知識を実践し、個人のスキルとして定着させること。今回であれば実践によるスキルの習得


SECIモデルとは、このように言語化できていない知識や体が直感で感じる技能(暗黙知)を、言語化された明示的な知識(形式知)へと変換・循環させていくプロセスを整理したものです(『知識経営のすすめ』)。

デザインと技術を形式知に変換するメソッド

SECIモデルで見る、知見を形式知化する仕組み
出所:野中郁次郎・紺野登『知識経営のすすめ』筑摩書房(1999)を参考にフェンリル編集部が作成

ワークショップでは、冒頭にFoundation Modelsの特性を理解し、どのように使いこなすのが最適なのかを座学形式で学んだ後、ワーク形式で実際の運用を体験しました。

AppleのAI(Apple Intelligence)の登場は、モバイルアプリにおけるAIのあり方を根本から変える可能性を秘めています。これまで高度な自然言語を処理するには、クラウドを活用することが一般的でした。しかし、それに伴うコストやプライバシーリスクを検討する必要がありました。iOS26以降で提供されるFoundation Models Frameworkは、これまでの課題をOSレベルで解決する新たな基準が提示されています。

Foundation Modelsの主な特長

  • Private on device:データがデバイス内で完結するため、機密情報を扱うビジネスシーンでもプライバシーとセキュリティを担保できる
  • コストと遅延の解消:クラウドへのAPI通信が発生しないため、利用料はゼロ。デバイス内で完結するため、通信遅延のないレスポンスが実現する
  • JSONのパースなしで型安全な構造データを直接取得:受け取りたいデータ構造を定義することで、生成される文章の手直しを最小限に

Foundation Modelsの活用事例

  • キーワード(SEO対策)の提案
  • 長文の要約
  • 画像から数値の抽出(例:スキャンしたレシートデータから金額のみを認識して計算する)

デザインと技術を形式知に変換するメソッド

Foundation Modelsの特徴
ワークショップを基にフェンリル編集部が作成

最新AI技術を次のプロダクトと融合する(連結化)

Foundation Modelsを活用するメリットは、「プライバシーの担保」「オフラインでの継続性」「推論コストの撤廃」の3点が挙げられます。

入力データはデバイス外に送信されないため、機密性の高い情報の取り扱いが容易になります。また、デバイス内で完結するため、ネットワークが不安定な環境でも安定して作業に集中できます。
一般的にクラウドを使用する大手AIサービスと比較すると、膨大なパラメーターの処理は困難です。とはいえ、実装の容易さと運用のしやすさにおいては、今後のアプリ開発事業における新たな市場開拓が期待できます。

得られた最新の知見を、フェンリルが培ってきたUXデザインやアプリ開発の「形式知」と統合(連結化)することで、単なるAIの実装ではなく、クライアントやプロダクトの特性に合わせた開発の選択肢が増えると考えています。

実践的な技術の連結の事例

  • Swiftの型でAIを制御(Guided Generation):AIの回答を単なる文字列ではなく、Swiftの「型」として直接入力できる(例:@Generableや@Guideの活用)。これにより、従来のAI開発で課題だった回答の不安定さを克服し、安全で堅牢なアプリ実装が可能になる
  • マルチモーダルな体験設計:Foundation Modelsを単体で使用するのではなく、画像認識や音声認識、画像生成といった他のAppleフレームワーク(例:VisionKit)とシームレスに連携できる。音声記録から議事録としてまとめることもできる
  • 自律的な処理を実現:会議の音声記録から要約を生成するだけでなく、モデル自らツール(例:Swift関数)を呼び出し、ToDoリストの作成や外部連携を自動で実行できる


私たちはこれらの最新技術を「ただ使う」のではなく、社会課題やクライアントの課題に対する「最適解」として形にしました。実際、今回のワークショップでは普段関わることのないエンジニア同士が積極的に交流する機会となり、個々で取り組んでいるプロジェクトや課題について会話が弾んでいました。

デザインと技術を形式知に変換するメソッド

ワークショップ内で課題と向き合う様子

実開発で使える知識へと定着させるために(内面化)

実際にワークショップでタスクをこなすことで、テクニックやTipsの共有にもつながりました。Foundation Modelsの特長を最大限に理解しつつ、実際の開発に組み込むには効率よく使いこなすテクニックも重要です。

ワークショップ中に交わされた、Foundation Modelsを効率よく使いこなすTips

  • プロンプトの言語対応:日本語は1文字1トークンを消費し、コンテキスト枠(約4,000トークン)を圧迫しやすい。プロンプトはトークン効率の良い英語で書き、出力のみ「in Japanese」を添えることで、より自然な日本語で回答を得られる
  • セッション管理:会話の文脈が肥大化して上限を超えないよう、AIと人が一度に行うやり取り(LanguageModelSession)をどのタイミングで分割・切り替えるかというアーキテクチャの設計が必要
  • ハルシネーション防止:小規模モデルでは、プロンプトの質が応答の精度と直結するため、プロンプトを事前に書いておき、ガードや文字数制限を仕込む工夫が必須

最後に

プライバシーと利便性を両立したオンデバイスAIは、これからのプロダクト開発における強力な武器になります。フェンリルは、これからもさまざまな最新技術と実績を融合し、ユーザーに心地よい体験を提供してまいります。

森安麻美

本記事の執筆者|森安 麻美
フェンリル株式会社 プロダクトマーケター

約10年間、化粧品メーカーでプロダクトマネージャーを経験し、スキンケアやメイクアップ・アイテムなどの商品開発とプロモーションを手掛ける。2022年フェンリルに入社し、プロダクトマーケティングを担当。同志社大学経営大学院修了。