【後編】ファンの方々と新しい接点をつくる『宝塚歌劇Pocket』アプリ

さまざまなご依頼に合わせてアプリやウェブにおけるデザインと開発を手掛けてきたフェンリル。2020年よりサービスデザイン部(以下、SD部)を立ち上げ、ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)を重視した質の高いサービスの創出に力を入れてきました。

前回に引き続き、古き良きものを受け継ぎつつ、新たな変革に挑戦し続ける『宝塚歌劇』様のプロジェクトについて、フェンリルの担当者が集まり、アプリ開発の裏側や、ブランドを理解したからこそ創り上げることができたプロモーション施策についてお伝えします。

企画段階からはじまるサービスの育成

アプリは開発したら終わりではなく、ユーザーに使い続けていただくことで価値が作られていきます。ユーザーに寄り添う開発とは、どのようなものでしょうか?

柴田 『宝塚歌劇Pocket』は、宝塚歌劇を「身近に感じていただきたい」という考えから作られたサービスです。

アプリの中にも華麗な世界観があり、ユーザーのお気に入りの情報をコレクションできる機能も兼ね備えています。開発の裏側では、新着情報や公演情報、スターのプロフィールなど、さまざまな情報の整理をしてデータ/フォーマットに落とし込むことが課題でした。

柴田 翼
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部マネージャー/プランナー
マーケティング会社でプランナーとして家電関連のプロモーション企画などを経験。2016年にフェンリルに入社し、主にアプリを中心としたサービス企画に携わっている。本プロジェクトでは企画と運用設計を担当。

池田 長期的な拡張性を考慮して、情報発信のデータだけでなく、ユーザーが操作する動線のデータ蓄積に関する設計に時間を要しました。

アプリ開発や制作の経験が豊富で、使いやすいサービスのあり方をノウハウとして持っていたとしても、長く愛していただくサービスを作るためには、きめ細やかなデータ収集と分析が必要になります。

池田 祐太
フェンリル株式会社 開発センター 開発3部/プロジェクトリーダー
Androidアプリエンジニアから始まり、数多くのスマートフォンアプリの開発に従事。2017年にフェンリル株式会社に参画し、本プロジェクトでは開発全体のプロジェクトリーダーを担当。

大柄 サービスを育てていくために必要なことは、現状の設計(As Is)だけでなく、どうなりたいのか(To Be)を仮説として立てる必要があります。そして、練り込まれた仮説を立てたとしても、ユーザーは想定外の動きをするものです。

アプリは機能にエラーがなくても、使いづらい体験が蓄積されれば、ユーザーは離れていきます。常にデータを見て仮説を立て、OODAループ(※1)を回し続けることで、サービスをより良い方向へと導いていくことができます。

一般的によく使われるPDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:検証、Action:行動)は、改善を目的としていますが、OODAループ(Observe:観察、Orient:方向づけ、Decide:判断、Action:行動)は、走りながら考えて実行に移すという「スピード感」を重視した意思決定のプロセスです。チームでディスカッションを重ねながら、どうすれば新しい価値を生み出せるのかをOODAを用いて検討しています。

また、アプリや関連サービスの利用状況を総合的に解析することで、ニーズの把握につながります。中長期のフェーズに分けて情報を整理し、より満足度の高いサービスを提供できるように、共に歩み続けたいと考えています。

大柄 優太
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部/マーケター
コンサルタント/マーケターとして、アクセス解析や広告運用などのデジタルマーケティング業務に従事。2022年にフェンリルに入社。ウェブ解析士マスターの資格を保持しており、アクセス解析を元にした改善施策の提案を得意とする。

サービスを成長させることを目的として、
改善施策を考えながら実行していくOODAループ

本質と向き合うことで見えた「宝塚歌劇」というブランド

プロジェクトの範囲は、アプリ開発だけではないと聞きました。制作の具体的な内容について教えてください。

中西 今回は、アプリの開発だけでなく、アプリ名やロゴ、紹介サイトのキャッチコピー、フライヤーなども制作範囲となり、企画からプロモーションまで、宝塚歌劇とフェンリルが共創して作り上げました。提案のきっかけは、アプリ開発が始動する前に、宝塚歌劇のご担当者と会話を重ね、資料の読み込みやリサーチを行い、情報の整理を進めているときでした。

情報を整理してみると、宝塚歌劇が長年愛され続けているのは、スターや担当者だけでなく「ファンの方々も一丸となって盛り上げている」ということでした。それぞれの気持ちは一方通行ではなく、ファンを大切にするスターや担当者の思いと、ステージへ向けられる愛情がスパイラルアップしているように感じました。

このような本質を知ることで、フェンリルも自然と宝塚歌劇を盛り上げていきたいという熱を感じて引き込まれていきました。

中西 弘樹
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部マネージャー/アートディレクター
マーケティング会社でデザイナーとして、家電や住宅など耐久消費財のプロモーション企画・制作を経験。2014年にフェンリル入社。コンセプト策定からビジュアル開発まで手掛け、一貫したブランド体験をデザインする。本プロジェクトでは、サービスの企画と設計、アートディレクション、グラフィックデザインを担当。

玉川 ブランドの深みを丁寧に伝えていただいたからこそ、アイコンのデザインや、劇場内で配布するフライヤー制作やプロモーションの企画までを一貫してお届けしたい。この思いを素直に宝塚歌劇のご担当者へ伝えてご提案を重ね、ひとつずつ形にしていくことができました。

アプリアイコンについては、宝塚歌劇の華やかさと公式アプリならではのオフィシャル感を表現した、オリジナルデザインを採用していただくことができました。アプリについては、ファンの方がそれぞれの観点で「ほしい」と思ってくださる情報を整理することを意識しました。

それぞれのスタイルで宝塚歌劇に寄り添える場所のひとつであることを伝えるためのコピーや、フライヤーで発信したいことについて、中西さんや宝塚歌劇のご担当者と一緒に考えていきました。

玉川 百代
フェンリル株式会社 デザインセンター デザイン1部/ディレクター
Webコンサルタント/ディレクターとして、ホームページ制作を通じたWebコンサルティング業務に従事。2021年にフェンリルに参画し、本プロジェクトではUIデザインのディレクションを担当する。

池田 アプリ開発やウェブ制作の場合、専門用語が飛び交う場合があります。しかし、大事なことはアプリを作ることではなく「何を成し遂げたいのか」を明らかにすることです。

難しい用語で説明を重ねたとしても、全員が同じ熱量で認識できなければ齟齬が生じます。宝塚歌劇とフェンリルが共通認識を持って進めるためには、分かりやすい言葉でコミュニケーションをとる必要があります。例えば、アプリのストア申請手続きなど複雑さを伴う部分についても、フェンリルでサポートさせていただきました。

困っていることを全員で乗り越えて不安を解消し、実現したいものが着実に作られていく。フェンリルが大切にしている「人間中心のものづくり」を具現化できたのではないかと思います。

華やかなアプリアイコンは、漢字の「宝」と
宝塚歌劇の5つの組をポケットに収めたデザイン

宝塚歌劇Pocketの特徴をわかりやすく表現したフライヤー

宝塚大劇場のホワイエに設置した宝塚歌劇Pocketの大型看板

中西 すべての制作を終えたあと、宝塚大劇場に大きく掲げられた広告を目にした時は感無量でした。ファンの方々が広告の前で写真を撮っている姿や、レビューを拝見し、ファンが楽しんでいる姿を間近に見ることができました。

アプリアイコンのデザインも評価いただき、宝塚歌劇を身近に感じていただきたいという思いが、少しずつファンの方に届き始めたと感じた瞬間でした。

「ビジネス価値✕ユーザー価値」を提供

クライアントと共創して作るサービスについて伺ってきました。最後に、フェンリルが提供できるビジネスやユーザーへの価値について教えてください。

大西 フェンリルでは、サービスのデザインや開発にとりかかる前に、想定ユーザーへインタビュー調査や、サービスの受容性確認をおこなっています。調査項目についてはさまざまあり、クライアントのご要望に合わせてご提案させていただきます。

アプリ開発を依頼する場合、すぐに企画から着手をすることが最短ルートであると考えているクライアントもいらっしゃいます。しかし、それぞれの思いや現状を整理することで、向かうベクトルを早期に揃えていくことができます。リリース後はクライアントだけでなく、ユーザーの声などを収集して分析し、アップデートに向けてスタンバイしています。

企画や調査の内容の詳細についてはこちらをご覧ください。

大西 まどか
フェンリル株式会社 デザインセンター SD部/UXコンサルタント
人間中心設計思考に基づいたウェブサービスの開発や研究・調査コンサルティングに従事。2021年にフェンリルに入社し、主に新規サービスの受容性評価やユーザーリサーチを担当している。博士(生涯人間科学)、HCD-Net 認定人間中心設計スペシャリスト。

大柄 マーケティングの観点では、企画段階からグロースサイクルを用いて成長要因を整理した上で、ビジネスの目標に合わせてアプリ内の重要な指標をKPIとして設定しています。

リリース後は、ユーザーのアクセス状況を確認することで、目標との差分や課題を可視化し、明確な目標とデータに基づいたサービス改善を可能にしています。フェンリルはデータ解析を行い、クライアントに合わせたブランド育成とユーザーに寄り添うサービスの観点を合わせ持ち「ブレないサービス設計」を行っています。単純に数値を見るだけではなく、どうアプローチしていくのかが大切で、そのためにはデータの読み方もセンスが求められます。

また、事業戦略から調査設計、サービス企画、そして運用までさまざまな専門家がフェーズごとに担当させていただきます。それぞれのフェーズを担当したメンバーが集結し、アイデアを共有しながらプロジェクトを進行していくので、チームワークをとても大切にしています。

宝塚歌劇のブランドを理解し、戦略から運用までクライアントとコミュニケーションを重ねて共創するプロセス
(プロジェクトによりプロセスが異なる場合があります。イメージとしてご覧ください)

柴田 アプリの改善はもちろん、今後のビジネスにおいてアプリのデータを活用していくのか?というデータマーケティングの提案もさせていただければと思っています。

サービスデザインとビジネスにおける戦略という両方の視点を持ち、クライアントの期待に応えながら信頼関係を構築していきたいと考えています。

クライアントとフェンリルが共創することでシナジーを生み、サービスを成長させる原動力を作っていきたいですね。本日はお時間をいただきありがとうございました。

本記事の執筆者|森安 麻美
フェンリル株式会社 事業開発ディレクター
約10年間、化粧品メーカーでプロダクトマネージャーを経験し、スキンケアやメイクアップ・アイテムなどの商品開発とプロモーションを手掛ける。2022年にフェンリルに移り、事業開発ディレクターを務める。経営学修士。

フェンリルではユーザーリサーチ、アプリケーションの企画立案、サービスデザイン、データドリブンマーケティングなど、クライアントのビジネスをさまざまな側面からサポートしています。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。




※1.OODAループ:
状況に応じて事業を進めていくために活用される手法。
現場でおきている状況を整理し、柔軟に調整していく手法として、新規事業のマネジメントにも使われている。

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